陸上のリレー競技を見ていると、思わず息をのむ瞬間があります。バトンをつなぐ、ほんの一瞬。スピードを落とさずに手渡すには、絶妙なタイミングと信頼が必要です。バトンを落としてしまえば、どんなに速くても勝つことはできません。私はあの場面に、経営という仕事の本質があるように感じます。
今年の春、プライムネットでもひとつのバトンの受け渡しがありました。創業以来、私が握っていた「資本」というバトンを、次の走者に託したのです。株式をすべて譲渡し、会社は新しいグループの一員となりました。
おかげで経営基盤はより安定し、成長の道筋も明確になりました。第一走者としての役目を果たし、チームの可能性を広げることができたと感じています。
ただ、リレーにはもう一本のバトンがあります。それが「経営の承継」です。
会社の理念や文化、人との信頼関係。数字には表れない“空気”を、どうつないでいくか。資本の承継よりも、このバトンのほうがずっと難しいと感じています。なぜなら、それは書面ではなく、人から人へ、時間をかけて伝わっていくものだからです。
私は今も経営の最前線に立っていますが、2027年の春には次の走者にこのバトンを渡すつもりでいます。その相手が社内の誰かかもしれませんし、社外の新しい風を吹かせてくれる人かもしれません。まだ確定はしていませんが、どんな形であっても確実にバトンが渡るよう、準備を怠らないつもりです。
日本の中小企業の多くは、事業承継への対応が遅れがちです。後継者が見つからないまま70代を迎え、気づけば体力や判断力が衰え、社員を不安にさせてしまう。そんな状況にならないよう、早めの準備を進めていくことが大切だと思います。
経営も人生も、永遠の単独走ではありません。いつか必ず、バトンを渡す瞬間がやってきます。