私がまだ若手社員だった頃の話です。年に一度の昇給で、あまりにもわずかな昇給額にがっかりした記憶があります。さらに落胆したのは、なぜその額だったのか、どのような評価を受けていたのか、上司や会社から一切説明がなかったことです。当時は、評価の根拠が社員に開示されないのが当たり前という時代でした。
それから年月が経ち、今の若い世代は、自分の評価に非常に敏感です。納得感のある評価が得られなければ、仕事への意欲を失い、離職につながることも珍しくありません。時代が変わったことを実感します。この変化を受けて、評価制度の導入や見直しを進める企業は、ここ数年で確実に増えてきました。弊社もその一社です。
弊社では2018年に人事評価制度の全面的な刷新を行いました。その際、自社で独自に設計するのではなく、人事評価制度に特化した専門のコンサルティング会社に依頼しました。制度設計を試行錯誤しながら進めると、かえって社員の信頼を損ねるおそれがあると考えたからです。評価制度は給与査定だけでなく、社員の仕事力向上を促す目標管理の機能とも連動する重要なものです。そのため、最初から専門家の力を借りて制度を作り上げました。
コンサルタントの支援を受けたことで、短期間で弊社の実情に合った評価制度が完成しました。導入後の1年間は、社内への定着を図るため、引き続きコンサルタントに伴走してもらい、無理なく制度を運用することができました。それから7年が経過し、制度は現在も運用を続けています。
社員にとって評価制度は、自分の給与に直結する仕組みです。だからこそ、評価基準となる項目の設定には細心の注意を払っています。納得感のある制度であるために、何度も見直しを行い、公平性と透明性を高めてきました。制度としてはまだ完成されたものとは言えませんが、経営者自身が先頭に立って、誠実に改善に取り組んでいる姿勢は、社員にも伝わっていると感じています。その結果、ここ数年で弊社の離職率は以前に比べて大きく下がりました。
人手不足や採用難が続く今の時代において、社員の離職を防ぎ、育成につなげる制度は極めて重要です。人事評価制度は、単なる査定の仕組みではなく、「人を伸ばす仕組み」として、これからの企業経営に欠かせないものだと思います。