数字で考える

7 10月

経営者が長年の経験で培った直観や肌感覚のようなものを大切にすることは、平時においては悪い事ではありません。しかし、悪天候で視界が効かない非常時には、羅針盤を頼った方が安全です。経営における羅針盤、それは数字です。数字といっても高度な演算は必要ありません。四則計算で十分です。情報→分析→戦略→実行という経営戦略を「数字で考え行動する」ことが大切です。

私が四十代で宿泊施設の総支配人に就任したとき、上司である社長から徹底して叩き込まれたのが、「売上に経費を連動させる」ことでした。売上が減少したときに、それに合わせて経費も減少させる。これは一見、当たり前のことのようで、実行するのは簡単ではありません。

会社の経費は変動費と固定費に分けられます。宿泊施設における変動費は食材原価やパートアルバイトの給与、消耗品、水道光熱費などです。これらは売上が下がればある程度まで自然と下がります。しかしそれだけでは不十分です。例えば、閑散期に客室稼働率が下がって朝食ビュッフェの利用人数が減ると「ロス率」が上昇し、原価率は売上程には下がりません。そこで使用食材の見直しや仕入れ先の変更などで原価率の圧縮に取り組まなければなりません。

各現場にはオペレーション上、最低限必要な要員人数があります。売上が激減したからといって、ゼロにするわけにはいきません。そうなると人件費率が上昇してしまうため、他の固定費を削減することで帳尻を合わせなれればなりません。しかし固定費に手を加えることは非常に困難です。設備関係など調整しようがない経費がほとんどだからです。エレベーターの数を減らすとか、消防設備点検をしないわけにはいきません。無理にコストカットを行うと、施設保全のリスクやサービスレベルの低下を招きかねません。それでもなお、「売上に経費を連動させる」を徹底するために、圧縮可能な固定費項目を何とか見つけ出し、対策を講じるのが、経営者の仕事です。

コロナ下で経済活動が制限され、観光需要が大きく落ち込むなか、宿泊施設の経営者は非常時の対策として、厳しい経費削減に取り組んできたことと思います。コロナ収束にようやく光が見え始めたいま、それらの対策も平時に戻す準備を考え始めるべき時期にきています。

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