ワンオペ

26 3月
 僕が30代前半だった頃の話です。客室数わずか11室の小さなホテルで働いていました。山間の隠れ家的な宿で、宿泊以外の人も利用できるカフェレストランもあり、8名ほどのスタッフで運営していました。
 1日の仕事の流れは、朝食サービス→チェックアウト→客室清掃→ランチ営業→夕食の仕込み→チェックイン→夕食サービス→バーサービスです。小さな宿なのでひとりで何役もこなします。繁忙期の仕事は、チェックアウト後の10時から12時が最初の“山場”です。なぜなら12時頃から多くのレストラン利用客が押し寄せるため、その前に全員総出で客室清掃を終わらせなければ、あとの仕事が詰まって回らなくなるからです。
 10時になると僕以外の全員が客室清掃に向かいます。僕はフロントのバックオフィスにひとり残って、売上の締め作業など事務仕事をする傍ら、電話での予約や問い合わせにも対応します。その頃はネット予約などなかった時代なので、電話がとにかく多かった。予約となると1本の電話に平均10分くらいかかる。その一方で、裏口に納品業者が来て検品したり、フロントに来客が来て応接したりと何かと忙しい。
 そうした忙しさも、均等に分散してくれればいいのだが、いつもそうとは限らない。例えば納品業者と対応中に、電話が鳴るので「ちょっと待ってて」と納品業者を待たせて電話に出たら、宿泊予約の問い合わせで、しかもかなり込み入った内容。なかなか終話しないので焦りだす。そのうちフロントに来客が来た様子で、カウンターに置いてあるベルをチンチン鳴らしている。「まずいな」と思ったら、オープン前のレストランに来客がぞろぞろ入って来た気配。その後「すいませ~ん!」とスタッフを呼ぶ声。その瞬間、僕以外のスタッフは全員、客室棟で必死の清掃作業中。フロントにもレストランにもスタッフはいない。ワンオペレーションの状態です。
 少し前に牛丼チェーン店で深夜のワンオペが問題視されましたが、飲食店でもどんな業種でも、小規模店舗ならワンオペ状態はよくあることです。本来、暇な時間帯だからワンオペのシフトが組まれるのだけど、たまたま来客が集中すると、悲惨な状態になる。オーダーを処理しきれず、お客さんはイライラ、スタッフは焦って泣きたくなる。誰かにヘルプを求めたくても無理。ひとり汗だくで動き回って、アタマもフル回転させて、一分一秒を争って、のどはカラカラ、水を飲む暇もトイレにいく間もなく、やっと何とか乗り切って、放心状態。
 話戻って、小規模宿泊施設の場合は、電話機が置かれているフロント周りはワンオペまたはそれに近い状態がよくあるはず。このような認識から、当社では架電でも受電でも、施設様と通話をする際にはこうした事情に配慮した行動を心掛けています。