酒パワー

17 12月

大学に入ってすぐ、体育会の競技スキー部に入部した。4月末の天皇誕生日がスキー部の初めての飲み会、新入部員歓迎コンパだった。開始時間は確か午後1時くらいだったろうか。大学のキャンパス内に野外音楽堂があり、その敷地内の噴水と周りの芝生がコンパ会場だった。

開始早々、新入部員が先輩部員の前で、大声で自己紹介と日本酒の一気飲みをさせられる。それが終わって、また一気。なんだかんだとまた一気。早速酔ってきて、「天皇陛下万歳!!」とか叫びながら、噴水の池に勝手に飛び込んだあたりから、記憶が薄れてきた。気付いたら、僕は布団の中で目を覚ましたのだが、そこは自分の家ではなかった。まくらの両側は嘔吐物で汚れ、家の中には自分しか居ない。暫くして家主が帰ってきた。スキー部の先輩だった。コンパ会場からつぶれた自分を先輩が皆で運び込んでくれたのだ。

スキー部はバリバリの体育会で、年に数回あるコンパはすべてが壮絶なものだった。そんなスキー部で大学4年間を過ごしたために、僕の精神は100%体育会系の物質で出来ている。だが社会人になってからは、それはほぼ封印をして生きてきた。軟弱サークル系の方々とも、それなりに合せていかなければならないのだ。

それでも昔は、会社の飲み会ともなれば、半分くらいの奴が真っ赤な顔をして、全員が大声になって騒ぎ、何人かは酔っぱらってわめきだし、最後に1人や2人つぶれるやつがいる。それが普通の飲み会の風景だった。

それが今や、飲み会でも酒を一切飲まない人が急激に増えている。うちの会社の飲み会でも、半分近くはノンアルコールだ。そのせいか、飲み会はいたって平静である。昼間のカフェでコーヒーを飲んでいる雰囲気と大して変わらない。会話も弾むし、楽しいことは楽しいのだが、酒パワーが入っていないので、だれも羽目を外さない。自己開示をしない。本音が出てこない。本当の素顔が見えてこない。アルコールの力に頼ることは悪いことのようによく言われる。そうかもしれない。でも、アルコールのおかげで生まれた絆や友情だって少なくない。

昔から、どんな飲み会でも何人かは飲まない人がいた。そういう人たちも、周りの酔っ払いたちと一緒に楽しく盛り上がり、その雰囲気を楽しんでいた。いまでもそれは変わっていないのだけど、全体の盛り上がり自体が、昔とは違うんだよな。

小さな子どもたちは何人も集まると、一緒に遊び、走り回ってふざけ合い、ものすごく盛り上がる。酒がなくてもハイテンション。本当に楽しそうだ。子どもは大人とは違って純粋だからね。素顔しか持っていないから。