宿泊業の生産性について考える②

30 8月

日本型旅館の多くは和室が主体で、畳に布団を敷くスタイルが一般的です。ここにも生産性を低下させる要因があります。最近の旅館は部屋食が減り、食事処かレストランで夕食を提供するところが大半ですが、客が夕食に出かけた隙に従業員が客室の布団を敷きます。夕食の時間帯は調理場から食事処まで、宿の一日の中でも忙しさのピークを迎えています。その中で布団敷き要員を確保するのは厳しいものがあります。一方、洋室なら比較的時間に余裕がある日中にベッドメイクをしてしまえばそれで終わりです。「布団上げ」も不要です。ベッドメイクを客室清掃と一体で行えるので効率が良いのです。
労働生産性以外にも洋室のメリットはあります。和室の畳は傷がつきやすく表替えなどに高いコストがかかります。比べてカーペットは耐久性が高くコスパが優れています。
最近は和室であっても、ベッドを設置する宿が増えてきました。足腰が弱っている高齢者には布団よりもベッドが便利なのです。そもそも、広い和室というのは、日本の高度成長期に始まった団体旅行や就学旅行を想定して作られたものです。ライフスタイルが変化して洋室に慣れた日本人にとっても、また二名一室での宿泊が基本の訪日外国人にとっても、旧来型の和室はニーズを満たすものではなくなっているのです。
話を生産性に戻します。日本旅館の宿泊料金は「一泊二食付」が基本です。「食べる・遊ぶ・泊まる」など複数のアクティビティを一つの場所で完結する手法にはメリットもありますが、生産性の面ではデメリットも少なくないのです。例えば、多くの日本旅館は観光地にあるため、どうしても年間を通して繁閑の波があります。閑散期に宿泊客が減ったときに、固定人件費がかかる料飲部門は利益率が大きく下がります。お客さんが少ないからといって、閉店することはできません。
「一泊二食付」の原則を打ち破り「泊食分離」に移行することで、食事部門の原価管理を厳格にし、売上利益をきちんと確保できるというメリットもあります。このテーマについては、また機会を改めたいと思います。