日本では、いくつかの業界で深刻な人手不足が問題となっています。まず最も大きな影響を受けているのは介護・福祉業界です。高齢化社会の進行により、介護職員や福祉関係者の需要は急速に増加していますが、業務の過酷さや給与の低さから、十分な人材が集まりにくい状況です。
次に挙げられるのは建設業界です。インフラの老朽化や都市再開発が進む中で、建設現場では技術を持つ職人の不足が大きな問題となっています。若手の人材も減少しており、特に技能が必要な職種では深刻な人手不足が続いています。
また、物流・運輸業界も大きな打撃を受けています。EC市場の拡大に伴い、物流の需要は増加していますが、トラック運転手など現場で働く人材が不足しています。さらに、2024年の残業規制強化(「2024年問題」)がドライバー不足に追い打ちをかけ、業界全体が厳しい状況に直面しています。
飲食・宿泊業界も同様に深刻です。コロナ禍からの回復後、観光需要が急増しましたが、それに伴い、飲食店や宿泊施設での人手不足が再び顕著になっています。特に地方の観光地では、必要な人材を確保することが難しい状況が続いています。
これらの業界で見られる人手不足には、それぞれ特有の事情があるものの、共通の課題も浮かび上がります。それは、需要の拡大と供給不足の両方が同時に起きているということです。
リクルートワークス研究所が行った労働需給シミュレーションによると、2040年までに社会全体の労働需要はほぼ横ばいで推移するとされています。しかし、労働供給は2027年頃から急激に減少し、2040年には約1100万人の労働力不足に陥ると予測されています。この結果として、宅配便が届かなくなったり、救急車が来ない、道路や橋が修繕されない、さらには警察官の不足など、生活に不可欠なサービスが消滅する危険性が指摘されています。
今、私たちは人手不足の始まりに直面しているに過ぎません。これからはさらに人材の確保が困難になるため、「今だけを乗り切る」発想は通用しなくなります。必要なのは、足りない人手を補うという短期的な対策ではなく、人手に依存しない方法へのシフトです。つまり、省人化を超えた無人化が求められています。
ECの物流センター(ピッキング作業の自動化)やコンビニ店舗(カメラとセンサーによるセルフチェックアウト)、農場(無人トラクターや自動収穫ロボット)など、AIやロボット技術を活用した無人化の先行事例からも多くのヒントを得ることができると思います。
参考文献)「働き手不足1100万人の衝撃」(古屋星斗+リクルートワークス研究所)