労働時間

20 11月

今から20年とか30年も前のことではありますが、私が宿泊業界で働いていた時、1日の労働時間は12時間くらい、休みは月に4~5日が普通でした。業界的にはそれが当たり前でしたし、自分のスキルや経験を向上させるためにも、必要な時間だとも考えていました。しかし、肉体的にも精神的にもいつも疲れていて、心の中ではもっと自由な時間が欲しいと望んでいたと思います。

2010年に私がプライムネットを設立したとき、そうした過去の企業文化とは完全に決別しました。創業から現在に至るまで、社員は基本的に残業や休日出勤をしません。有休休暇もほぼ100%使います。新型コロナが明けた頃から受注が好調で業務多忙になったため、現在は受注数を制限しています。制限することで売上増や会社の成長機会を逃していることになりますが、それでも社員に残業や休日出勤を課すつもりはありません。

このような対応をする理由は3つあります。一つ目は、オフィスワークは高度の集中力を要するため、長時間労働をしても効率が低下して、結果的にアウトプットはそれほど増えないこと。二つ目は、定時で仕事を終わらせるために、様々な工夫や業務改善に取り組むことで、長時間労働に依存しない組織文化を作りたかったこと。三つ目は、ワークライフバランスを守ることが社員の健康と幸せにつながると信じているからです。創業以来8時間労働を維持できていることに、経営者として一定の手ごたえを感じていました。

ところが最近、ある海外の女性がSNS上で「9時~17時の労働は酷い」と訴える動画が日本でも話題になりました。大学を卒業して新社会人として働き始めたという女性は、職場が自宅から離れているため、朝は7時半の電車で出勤。帰宅は夜18時すぎになり、「帰宅後に入浴や食事、運動をする時間もないし気力も沸かない」と状況を嘆いたそうです。

定時で帰宅している女性の訴えに対して、日頃から残業を強いられている人からは「8時間で仕事を終えられるなら天国」「18時すぎに帰宅って、夏ならまだ明るい時間。とんでもなくホワイト企業だ」などと批判的なコメントが寄せられていました。
私も同じく、この女性のように考えるのはごく一部の人だろうと思い、SNSやブログを調べてみました。すると「8時間労働 耐えられない」「8時間労働 頭おかしい」「週5で8時間なんて無理」「8時間労働は長すぎて、人生の無駄遣い」などのコメントで溢れかえっていました。それらは主にZ世代(1990年代半ばから2000年代初頭に生まれた世代)による投稿と思われます。彼らはワークライフバランスを重視し、キャリアよりも個人的な幸福や健康を優先する傾向にあることが指摘されています。これには、短時間やフレキシブルな労働時間、リモートワークなどが含まれることが多いようです。

Z世代がこのような価値観を持っている限り、長時間労働が常態化している宿泊業界では今後、人手不足が更に深刻化していくのかもしれません。だとすれば、解決策として労働時間の正常化、さらには短時間労働の導入を積極的に行うべきでしょうか。それは高い賃上率を維持しながら実現可能でしょうか。そもそも人手不足問題の本質は何なのでしょうか。答えが簡単ではないことは確かです。

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