試練

13 12月

バブル崩壊後の「失われた30年」は観光業界にとっても、長い冬の時代でした。延々と続く下りエスカレーターに乗っているような感覚。実に息苦しく困難な時代であったと思います。それが、官民の努力によりインバウンド誘致という戦略に成功し、東京オリンピックの開催も相まって誰もが明るい未来を思い描きました。そんな矢先に起こった新型コロナというパンデミックは、観光業界にとってあまりにもショッキングな出来事でした。

この2年半はまるで洗面器に顔を沈めて、息を止めて我慢しているような気分でした。ようやく行動制限が撤廃され、全国旅行支援が始まって、久しぶりに息を吹き返した感があります。観光需要は着実に回復に向かっており、中国がゼロコロナ政策を転換したことも明るい材料です。

しかし、宿泊業界には次なる試練が襲い掛かっています。そのひとつが人手不足です。コロナ下で多くの人材が流出しました。いま募集をかけても応募は少なく、採用コストは増すばかり。人手不足が解消されないまま、次の離職を生む悪循環に陥っています。求めるスキル水準を満たす人材を獲得することは夢のまた夢で、頭数さえ揃わない事態です。

そして次なる試練は価格高騰です。原油高騰がエネルギー価格を押し上げ、製造コストに転嫁され、商品価格に転嫁されます。急激な円安との相乗効果で、まさに未曽有の値上げラッシュが起きています。帝国データバンクは今月、2023年に値上げが予定される食品の品目数が4000品目を超えたと発表しました。しかも一品目が4度も5度も値上げを繰り返すとの観測もあります。まさに値上げの大波が繰り返し襲ってくるのです。食材原価だけでなく、価格高騰は消耗品から設備工事代金までホテル経営の360度に及びます。

マーケティングの有名なフレームワークである「SWOT」は、事業の強みと弱み、機会と脅威を分析し、戦略構築に活かしますが、宿泊業界のいまをSWOTで分析すると、脅威の領域がひときわ膨張しているのではないでしょうか。台湾有事などの安全保障、南海トラフ地震などの大規模災害、温暖化による自然災害の増加、コロナに続く新たなパンデミック・・・。

宿泊業界は度重なる試練に耐えられるのか、生き残ることができるのか、その力と知恵をこの時代に試されているのかもしれません。

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