「脱平均」で考える

19 3月

人間の外見と内面が異なるように、ビジネスでは現象の表面だけでは本質を把握するのが難しいです。サービスや生産の現場を歩き、直接目で見て感じることは、マネージャーにとって基本です。しかし、表面上問題がないように見えても、実際には見えないところに問題が潜んでいることがあります。このため、経営者は多様な数的データを収集し、それらを分析して問題を発見し、解決策を練ることで、多角的な対応が求められます。

数字の分析は、高度な数学的スキルを必要としないこともあります。通常の足し算、引き算、掛け算、割り算で十分な場合もあります。しかし、割り算による平均値については注意が必要です。以下の事例でその理由を説明します。

事例(1)
あるレストランで来客数が減少していました。近隣に同価格帯のレストランが新たに出店したため、店主は競争力の低下を原因と判断し、値下げで対抗しましたが、客数の回復は見られず、単価の低下により売上はさらに減少しました。

この失敗は、来客数を1日あたりの平均人数で捉えたことにありました。時間帯別の分析を行うと、早い時間帯の来客数が大きく減少していたのに対し、遅い時間帯は逆に増加していたのです。さらに調査すると、レストラン近くの劇場の開演時間が以前より早まったため、観劇前の客数が減っていることが判明しました。この情報を基に観劇客向けのクイックディナーを提供し、早い時間帯の客数を回復させることができました。また、遅い時間帯の利用客は近くのオフィスビルに入居した企業の社員が残業後に来店していたことが判明しました。これに対応して閉店時間を延長し、近隣企業へのチラシ配布で更に客数を増やすことができました。

事例(2)
戦闘機の設計チームがパイロットの操作性向上のためにコックピットの設計変更プロジェクトを開始しました。多くのパイロットの身体データが収集され、その平均値に基づき、新型機の座椅子の高さや操縦桿の位置の変更が行われました。しかし、その結果、多数のパイロットから不満の声が上がりました。原因は、平均値を満たしているパイロットが全体のわずかな割合で、大半のパイロットにとっては体格に合わない仕様であったからです。

割り算によって算出される平均値で安易に判断することは危険です。「平均的な顧客」「平均的な社員」など存在しない場合もあるのです。脱平均で考える視点を持つようにしましょう。数字というのは、時にマジックやトリックのように、我々の知覚や判断を惑わせる存在にもなりえるのです。

参考文献)
数字で考えるは武器になる(中尾隆一郎)
戦略「脳」を鍛える(御立尚資)
平均思考は捨てなさい(トッド・ローズ)

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